購買ワークフローを電子化しようとすると、まず様式が机に並びます。稟議書、発注書、検収書、そして請求書の照合表。
紙のときはこの順に回していたものを、システムでは何本の申請として組むのかが決まりません。
「1本にまとめれば、案件ごとに追いかけるのは楽になりますよね」
こう口にしたあとで、たいてい同じところで止まります。
1本にすると、請求書の処理が終わるまでその申請は開いたままです。決裁が下りたのに完了しない申請が、一覧に並び続けることになる。
どこで一度閉じればいいんだろう。
迷いの原因は、手元の様式の枚数にあります。
ただ、様式は押印欄をどこに置くかで分かれてきたもので、承認の単位とは別の理由で枚数が決まりました。紙の枚数をそのまま申請の本数に写すと、根拠のない区切りが残ります。
決めるべきは本数ではなく、どこで一度閉じるか。本数はその結果として出てきます。
閉じる位置の見方を整理します。手元の設計を並べ替えるときの、たたき台になれば十分です。
社外を待つ時間が日単位を超えるところが、閉じる位置の候補になります。待っているあいだ申請を開けたままにするか、いったん閉じて別の申請で再開するか。
本数は、この判断の結果として決まります。
購買ワークフローとは、物品やサービスを買うと決めてから、代金の支払を承認するまでの手続きを一続きに扱う仕組みです。この一続きには、性質の違う仕事が4つ入っています。
例えば、製造部から上がってきたコンプレッサー1台の入れ替え。金額は320万円で、発注先は本体と設置工事で2社に分かれます。経路は課長、工場長、管理部長、経理の4段です。
段階 | 決めていること | 社外を待つ時間 |
|---|---|---|
稟議 | 買うかどうか、いくらまで出すか | 待たない(見積は稟議を起こす前に取り終えている) |
発注 | どこに、いくらで頼むか | 契約書を取り交わすなら数日 |
検収 | 届いたものが注文どおりか | 納期しだい。工事なら月単位になる |
支払 | 請求書が発注と検収に合っているか | 請求書の到着待ちで月をまたぐ |
見積をいつ取るかを押さえておくと、この表の読み方が変わります。320万円という金額を稟議に書けている時点で、見積はもう手元にあるはずです。
相見積の依頼や取引先との条件交渉は、稟議を起こす前に終わっています。
つまり、社外を待つ時間は、稟議より前と、発注より後に分かれて存在します。 稟議から発注までの区間は、社内の誰かが承認すれば進む区間です。
日単位を超える待ちが挟まるのは、検収の手前と支払の手前。閉じる位置の候補も、この2箇所になります。
候補が2箇所なら、両方で閉じるか、片方だけで閉じるか、どちらでも閉じないかの3通り。ここから1本、2本、3本という本数が出てきます。
決裁したときの内容を、あとから書き換えられる状態になります。ここが1本を選ぶときのいちばん重い判断です。
1本にすると、検収の結果と請求額を同じ申請に書き足すことになります。
工事の代金が出来高で340万円に確定したとき、稟議に書いた320万円の欄をどう扱うか。
同じ欄を上書きできる設計にすると、340万円が決裁されたように読めてしまいます。
決裁されたのは、どっちの金額だったんだろう。
監査で証跡を求められたときに答えられなくなるのは、この形です。決裁の内容と、その後の実績を、同じ欄に載せないという線引きが要ります。 実績用の欄を別に設けるか、決裁が下りた時点で稟議の欄を編集できないようにするか。
これは運用の工夫で後から吸収できる話ではなく、フォームの設計そのもの。作り直すには、決裁済みの申請をどう扱うかまで含めた移し替えになります。
1本にすると、一覧も読みにくくなります。進行中の欄に、決裁を待っている案件と納品を待っている案件が同じ表示で並ぶからです。
ただ、こちらはステータスの分け方やビューの条件で相当程度軽くできます。承認待ちと納品待ちを別のステータスとして持たせ、一覧を絞り込む。
一覧の情報量が落ちる仕組みそのものは、依頼系の申請は一覧を見ても誰の件か分からない。原因と一覧から逆算するフォーム設計で別途整理しました。
設定で軽くできる不便と、設計で決まってしまうものは分けて見る価値があります。1本を選ぶときに効いてくるのは、後者です。
区切ると、それぞれの申請が短い期間で閉じます。進行中の表示が、そのまま「いま誰かの手元にある」という意味になる。
引き受けるのは、閉じたところをつなぎ直す仕事です。
検収の申請を起こすとき、発注で決めた品目と金額をもう一度入れることになります。手で入れるなら、電子化して減らしたはずの転記が戻ってきます。
製品によっては、先行する申請の内容を引き継いで次の申請を起こす仕組みが用意されているので、そこに載るかどうかで負荷がだいぶ変わるでしょう。
承認経路も本数分になります。ここで一度、検収に承認が要るのかを確かめておきたいところ。
後者を申請として組むと、承認者のいない経路を作るか、形式だけの承認ステップを1つ置くことになります。経路が増えた分は、人が動くたびの手直しの対象にもなる。
この負荷の積み上がり方は、承認経路のメンテが終わらない理由で扱いました。
会社によって分かれます。分かれ目は、請求書の受け取りと仕訳をどのシステムでやっているか。
ここで決まったことが、検収を独立した申請にする意味まで変えます。
3点照合とは、発注書、検収書、請求書の3つを突き合わせて、注文どおりのものが届き、請求額が合っていることを確かめる手続きです。購買の統制として最後に効く工程で、決裁と実績のずれが表に出るのもここです。
請求書受領のサービスや会計システム側で照合しているなら、ワークフローに求められるのは発注と検収の記録を渡すことだけになります。この場合、支払は閉じる位置の外側に出ます。
検収を独立させる理由は「照合の材料をきれいな形で渡すため」に変わる。
ワークフロー側で照合まで持つなら、支払依頼を1本の申請として立てることになります。ただ、請求書の到着は月をまたぐことがあるので、検収と同じ申請にまとめると開いたままの期間が伸びます。
検収の位置づけも、ここで変わります。会計側で照合するなら検収は記録で足りる。ワークフロー側で照合するなら、検収は照合の前提になる承認済みのデータになります。
同じ「検収を独立させる」という判断でも、意味が入れ替わるわけです。
1つの申請から複数の帳票を出せる製品もありますが、明細行ごとに宛先を変えて自動的に出し分ける動きまでは、標準では備わっていないことがあります。発注先が複数に分かれる案件では、この前提が閉じる位置の議論より先に本数を決めてしまいます。
閉じる位置で決まるのは、縦にいくつに分けるかです。もう1つ、同じ段階の中で申請が横に並ぶ理由があります。
帳票出力は、Excelなどのテンプレートに申請の項目を差し込んで1枚のファイルを作る仕組みです。差し込む元が1つの申請なので、出てくるのも基本的に1枚になります。
コンプレッサーの例に戻ります。本体を1社、設置工事をもう1社に頼むなら、発注書は2枚必要です。
1本の申請に2社分の情報を入れておいても、そこから宛先の違う2枚を出し分ける動きは、標準では備わっていないことがあります。
とすると、取れる形は3つ。
選定の場で「帳票出力はできますか」と聞くと、答えはほぼ○で揃います。差が出るのは、その一段下です。1つの申請から何枚出せるのか、明細行ごとに分けられるのか、宛先を行ごとに変えられるのか。
触って分かることと導入後に効いてくることが重ならないという話は、ワークフローのトライアルは、何を確かめる30日か。検証を3層に分けて設計するで扱いました。
閉じる位置を決める前に、確かめておくと迷いが減るものを挙げます。聞く相手で分かれます。
社内で確かめること
選定先に確かめること
正直に言うと、ここから先は私も答えを出せません。
購買の中身が案件ごとにばらついている会社では、どの形に寄せてもはみ出す申請が残ります。ばらつきを吸収するために購買の種類ごとに書式を分けると、今度は書式が増えて、どれを使うかを申請者が迷うようになる。
この迷いと、開いたままの申請が一覧に残る不便のどちらが重いかは、日々の購買を回している側でないと量れません。
私は選定に立ち会う側で、1つの申請から何枚出せるかまでは調べてお伝えできます。ただ、どちらの痛みを引き受けるかを決められるのは、実務を持っている側です。
製造部から上がってきたコンプレッサー1台の入れ替え。金額は320万円で、発注先は本体と設置工事の2社。経路は課長、工場長、管理部長、経理の4段です。
発注から設置完了までは月単位。工事の代金は出来高で確定し、請求書が届くのは完了の翌月です。
日単位を超える待ちが、検収の手前と支払の手前の両方に挟まっています。だとすれば、縦には3つに分かれます。稟議と発注で1つ、検収で1つ、支払で1つ。
そこに発注先の数が乗ります。本体と設置工事で発注書が2枚必要なので、発注の申請は横に2本並ぶ。稟議は1件の意思決定のままなので、ここでは増えません。
結果として、この案件は稟議1本、発注2本、検収1本、支払1本という形に落ち着きます。本数は、閉じる位置の数と発注先の数から出てきた結果です。 先に「3本で組む」と決めていたら、この形にはたどり着きません。
同じ製造部から上がる潤滑油の定期購入なら、様相が変わります。
発注先は1社で、数日で届く。金額は見積のまま動かず、請求は月締めで他の品目とまとめて1枚になります。
日単位を超える待ちが、どこにも挟まりません。支払の照合は他の品目と一緒に会計側で処理されるので、ワークフローに支払を持たせる理由も薄い。
稟議と発注と検収を1本で通しても、開いたままの期間はほとんど発生しないでしょう。
同じ購買稟議という名前でも、閉じる場所は同じになりませんでした。
決めるのは全社で1つの本数ではなく、どういう購買をどちらに寄せるかの振り分けです。金額の大小ではなく、納期の長さと請求の来方で分ける。
この2つは、稟議を起こす時点でおおむね分かっているものです。
購買ワークフローの本数が決まらないのは、社内の整理が足りないからではありません。
紙の様式の枚数と、申請として閉じるべき位置が、別の理由で決まっているからです。様式は押印欄の置き場所で分かれ、申請は社外を待つ時間の長さで区切られます。
本数を先に決める必要はありません。閉じる位置を2箇所のうちどちらで使うかを選び、そこに発注先の数を掛ければ、本数のほうが後から出てきます。
この整理が、購買の設計を並べ替えるときのたたき台になれば幸いです。
できますが、請求書の到着までその申請が開いたままになります。納品と請求がほぼ同時に届く購買なら1本で収まり、月締めで請求が来る購買では開いている期間が伸びます。
判断の材料は、検収から請求書到着までの日数が購買の種類ごとにどれくらいばらついているかです。
納品ごとに部分払いをするなら、その回数分の検収が支払の根拠になります。全額を最終納品後に払うなら、途中の受領は記録として残し、承認を伴う検収は1回でも成り立ちます。
支払の条件を先に確かめると、検収の回数は自動的に決まってきます。
急ぎの対応で発注が先に出る事後稟議は、購買の運用からなくなりません。通常と同じ順番に押し込むと、発注の申請が稟議より先に立つ形になって記録が読みにくくなります。
専用の書式を1本用意して通常の稟議と区別しておくと、後から件数と理由を振り返れます。